MLB30球場全部行った

ザ・スコアラーを読んだ

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巨人で長年スコアラーを務め、2009年のWBCでもチーフスコアラーとして世界一に大きく貢献した、三井康浩氏の書籍。図書館でたまたま見かけたので即借り*1

 

スコアラーがどういう仕事をしているのか、そしてどのようなポイントで選手を観察しているのか、説明してくれてている。

 

特に印象的だったのは、選手への情報伝達。

例えば敵チームの先発投手の場合、スコアラーはオープン戦やシーズン中の投球データだけでなく、試合映像をチェックして選手の癖を盗んだり、試合前の練習から投手の状態を把握する、等多岐にわたる情報を収集している。

 

しかし、それをそのまま選手に全部伝えてしまうと選手は混乱してしまう。データの結果と選手の感覚が違う場合がある。

例えばトラックマンは数値から「カットボール」と判断するが、選手は「スライダー」と認識しているボールがあった時に「カットボールがくる」と伝えたら選手は戸惑ってしまう。

また、球速以上に球がのびている投手に対し、球速だけ伝えることは先入観を与え、本当に重要な情報に目がいかなくなる。

 

このようなギャップを無くすために如何に情報を選別し、必要な情報だけを上手く伝えるか、機器やデータと選手をつなぐ仲介者になれるかがスコアラーの重要な資質

が重要だとのこと。

 

これはマネーボールやアストロ・ボールでも分析官が重要視していたことに通じる。どんなに素晴らしい分析をして、優れたプランを立てても、選手が納得して実行してくれなければスコアラーの存在意義はない。スコアラーが生み出せるのはあくまで「無形」のもの。その為にはどうしてそのような判断に至ったのか、プロセスをしっかり丁寧に伝えることや、コミュニケーション能力が非常に重要になるとのこと。

 

この本を読んで、スコアラーは自分が思ってた以上にチームの戦略方針に寄与していることがわかった*2

 

どこまで選手に情報が伝達でき、実行できているかも含めスコアラーの腕が問われる。そんなことを考えながら試合を見てみると面白いのかもしれない。

 

その他にも打撃練習でどのような点に注目しているか、試合中の選手のどこを見て調子の良し悪しを判断しているか、過去の好投手たちに対してどのような戦略を立てて攻略していったか、等が書かれており、読むことで野球中継の楽しみ方が増える一冊。

 

そして何より、この本で一番鳥肌立ったのは序章である。

ひょうんなことでWBCに帯同することとなり、1次ラウンド韓国戦で宿敵キム・グァンヒョンを如何にして攻略したか、2次ラウンドキューバ戦で剛腕・チャップマンを如何にして攻略したか。

そして決勝のイチローのタイムリーに繋がるベンチ裏でのやり取り…

 

激闘の裏でこんなことがあったのか、非常にワクワクしながら読むことができます。

 

 

ザ・スコアラー (角川新書)

ザ・スコアラー (角川新書)

  • 作者:三井 康浩
  • 発売日: 2020/02/08
  • メディア: 新書
 

 

*1:人気の著書なのか、以前借りようと予約したら30人くらい待ちだった気が…

*2:今ではスコアラーがベンチ内に入り、選手や首脳陣に助言しているシーンはよく見られるが、ベンチ内に入るようになったのは三井さんが初めてだったらしい。